ネガというジャズ喫茶。 | ご飯です!

ネガというジャズ喫茶。

女子高を卒業して、

大学を卒業しても、これといった職業にもつけなかったので、

父の小さな中小企業の会社の事務を手伝いながら、

曲を時々作ってはアマチュアが集まってやるミニコンサートなんかで

歌ったりしながら若い一時期を過していた。

当時を振り返って、

自分にとって重要な場所だったのは、

「ネガ」というジャズ喫茶だ。

「ネガ」を通して、当時、たくさんの演劇、コンサート、ライブ、を観た。

「ネガ」を経営していたIさんという方は

東京写真大学を卒業して、地元のテレビ局に就職していたが

その後はやめて、時々そのテレビ局のディレクターとして、

単発な仕事をされて、ジャズ喫茶をされていた。

ある時、ローカルなある町の紹介番組を作る仕事がきたらしく、

その番組を進行させるパーソナリティを探していた時期、

たまたま、アマチュアが4つほど集まってやっていたコンサートに

出ていた私の歌を聴いて、私にパーソナリティをやらないかと

声をかけて下さったのだ。

後で、私の歌ではなくて、間の語りが良かったから、っていうのを

きいて少しがっかりしたのけど…。

その番組作りは三日間の取材と、徹夜の編集を経て作られた一時間番組だった。

放送されたテレビの自分があまりにブスでがっかりしまくりだったのけれども、

それでも、ものすごく楽しい経験で、

撮影チームの方達もとてもいい人で、

昔の楽しい経験のトップともいえるかもしれないくらいだった。

そして、その番組のBGMには全部、私の曲が使われたのだ…。

今、思うと信じられない!


そんな風に、そのジャズ喫茶のIさんとの出会いがあったが、

そのIさんは風貌はこういっては失礼だけれども、

おせじにもかっこいいとは言えなくて、どちらかというと

狸親父みたいだったけれども、雰囲気とか話方とか、言葉数は多くはないが

とても深みのある声で、

なんていうか魅力があって、温かみがあって好きだった。

そのジャズ喫茶に行くと、

なんだか新しい違う世界と触れることができるように思った。

そこはいつも刺激的でかっこよかったり、

緊張感があって、自分が大人の世界の住人になったような気がした。

ドアを開けると大音量でジャズが流れていて、

その中で、いろんな人が話をしていたり、また、

静かにリズムを取りながらジャズを聴きコーヒーを飲んでいた。

いろんな情報や、気になる催しのこととはそこで知り、

そうしてそれらを観に行った。


「赤テント」公演、「東松照明の世界展」、様々なジャズのコンサートに出かけた。

そういえば、沖山秀子さんのべろんべろんに酔っ払ったライブも

観たなあ~。

映画館も、街中のすぐ近くにあったので、よくふらっと気軽に映画も観たりした。

そういうたむろできる場所がみんな街中にあった時代だった。

刺激を受ける面白いものを知ることのできる中心が

ジャズ喫茶というのも多く、

「ネガ」もそういうジャズ喫茶の一つだったと思う。


結婚してそういう時代は遥か遠くになってしまったが、

あの頃、泣いたり笑ったりしながら、

人の中で右往左往しながらも、楽しかった。

たまらなくその時代をなつかしく思い出す時があるが、

もう、そのジャズ喫茶もなくなって、

Iさんも亡くなってしまって、二度と会うことはできないんだな。

その当時、そこでよく出会った人々に会うことがいつかできるのかな?

できるといいな…。